活性酸素と老化

社会ニュース - 7月15日(金)3時4分

老化に活性酸素関与せず 日米チーム、従来の説否定

 老化の有力な原因の一つとされてきた「活性酸素」が、実は老化に関与していなかったとの研究結果を、東大食品工学研究室の染谷慎一(そめや・しんいち)特任教員らと米ウィスコンシン大、フロリダ大のチームがまとめた。チームはさらに、細胞内小器官「ミトコンドリア」にあるDNAの損傷蓄積が老化の一因となるメカニズムを解明。15日付の米科学誌サイエンスに発表した。
 活性酸素は、体を酸化させ、遺伝子や細胞膜を傷付ける有害物質とされる。従来、活性酸素ミトコンドリアを攻撃して老化を促すと考えられていた。その働きを抑える抗酸化効果をうたった健康補助食品などが市場をにぎわせている。
 染谷特任教員は「マウスを使った実験で、活性酸素ミトコンドリアに障害を与えているとの見方が否定された。新たなメカニズム解明は、老化の抑制方法開発につながる」と話している。
共同通信) - 7月15日3時4分更新

なかなか興味深いニュースではあるが、この記事からでは、どのように老化に活性酸素が関与していなかいという結論が得られたのかがまるで読み取れない。そこで原文をあたってみた。

http://www.sciencemag.org/content/vol309/issue5733/index.shtml

Mitochondrial DNA Mutations, Oxidative Stress, and Apoptosis in Mammalian Aging
G. C. Kujoth, A. Hiona, T. D. Pugh, S. Someya, K. Panzer, S. E. Wohlgemuth, T. Hofer, A. Y. Seo, R. Sullivan, W. A. Jobling, J. D. Morrow, H. Van Remmen, J. M. Sedivy, T. Yamasoba, M. Tanokura, R. Weindruch, C. Leeuwenburgh, and T. A. Prolla
Science 15 July 2005: 481-484.

論文をざっと眺めてみたのだが、共同の報道にある論旨はちょっとおかしいように思えてきた。

論文では、ミトコンドリアDNAのproofreading*1が欠損した(=ミトコンドリアに突然変異がたくさん起こる)早老マウスを作り、これを用いて、ミトコンドリアDNAの変異と早老症状とを繋ぐ現象を探っている。

問題の活性酸素については、変異マウスと正常マウスの心臓と肝臓で活性酸素の産生量を調べたら、老化しても若くても、変異があってもなくても、活性酸素の産生量に有意な差がなかったというのだ。

一方、アポトーシスについては、早老マウスで増えていたらしい。

 
 

ここから言える事としては、私には、このマウスが早老症状を示す仕組みとしては、

 ミトコンドリアの突然変異 → 活性酸素産生量増加に寄る組織ダメージ → 早老症状

という経路は成立せず、

 ミトコンドリアの突然変異 → アポトーシスの増加に寄る組織機能不全 → 早老症状

という経路であろうという事に過ぎないのではないかと思えるのだが。

それとも、老化関連では上の経路をメインとして語られていたというような背景があるのだろうか。

 
 

それにしても記事にある

活性酸素ミトコンドリアを攻撃して老化を促すと考えられていた。

活性酸素ミトコンドリアに障害を与えているとの見方が否定された。

という部分についてはまるで言及されていないのではなかろうか。ここでは活性酸素ミトコンドリアの変異の上流に位置する事になるよね。

故に、これに対する意見とするには、このマウスに活性酸素を亢進させる、もしくは抑制する薬剤でも投与して、その影響を正常マウスと比べると言う実験あたりでないと、不適切なんではなかろうかね。

 
 

どうでしょう。私の誤解に対するご指摘は歓迎します。

 

まあ、

その働きを抑える抗酸化効果をうたった健康補助食品などが市場をにぎわせている。

の部分については、いかがわしさを感じることの方が大きいので、こういうサギ行為をつぶすために有効だってことなら、別にいいんだけどねえ。

*1:DNAを複製する時の校正機能