しきい値なし直線モデル下で予防原則を適用すると被ばくゼロが適切か

id:tasoi さん
コメントをいただいてから回答まで長い時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

まず

<共通認識>
放射性物質による発ガンリスクには,線量に対する閾値の有無は,科学的にほとんど未確定。
・公衆衛生対策としてLNTモデルを前提することは適切。
 ⇒すなわち,閾値無しの恐れがある場合,予防原則上,被曝を極力避けるべきなのが本来妥当。

には同意しません。3行目はtasoiさんのご意見であり、なぜこれがいきなり「共通認識」とされているのでしょうか。

予防原則は"「疑わしいものはすべて禁止」といった極論"*1ではありませんし、LNTならばゼロでなければならいというデラニー条項*2のような考え方は、現在のリスク管理では採用されていないと理解しています。

またtasoiさんは、自然放射線がゼロもしくは少なくとも万人に均一であることを(暗黙に?)前提とされているように見えます。
しかし、自然放射線は世界平均で約2mSv程度あります*3。これは平均値であり、自然放射線源からの線量分布は対数正規分布に従うことが知られています。実際に世界には、ラドンや大地放射線から、5mSvとかそれ以上の自然放射線による被ばくを受けているケースがあることも知られております。この分布とその範囲の線量の健康影響の大きさを考えた時、現在の規制の枠を大きく超えてまで、放射線のことしか考えないリソースの配分を行う行為が、正当化*4されるとは限らないと考えております。

また、「引っかかる点」の記述はしきい値モデルにより現行の規制が行われているかのような仰り様ですが、そもそも放射線の規制はLNTのモデルに従っています。

「引っかかる点」について、個別に回答を用意しようと思っていましたが、詳述するだけのまとまった時間が取れないので以上とします。実質的にほぼ回答になっているかとは思いますが、なにかありましたらご指摘ください。

*1:wikipedia記事中の表現。

*2:動物実験で発がん性を示した物質は食品から検出されてはいけないとした、どんなに微量であってもリスクが認められる限りダメとの考えに基づく、1958年に米国で制定された法律。

*3:大まかにいえば、半分(約1mSv強)が空気中のラドン、1/4-1/5(約0.5mSv)が大地から。

*4:参考: http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-01-05 および http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=937