AFPの放射線に関するデマ記事


毎度のことではあるものの、AFPBBの記事がひどすぎる。


今回の「これはひどい」は、「CTスキャンの被爆量、想定より多かった 数十年後にがん発症リスク」という2009年12月18日 18:35付の記事。


まずそもそもタイトルがひどい。被爆ってなんだよ。CTは爆弾か?AFPBBは漢字の意味も分からないバカが記事を書いているのだろうか。さらにAFPBBでは校正という概念を知らないのだろうか。んでもって何日もその程度の誤字を放置するっていったい何を考えてるんだろうか?


ことほどさようにこの記事はひどい。簡単に何がひどいか概略を述べれば、元の論文が明らかにしたのはタイトルの前半、被曝量がこれまで一般的に言われているより多いことと、CTの頻度が上がって集団として非常に多くなってきたことのみ。数十年後にがんがあがることを明らかにした論文でもなんでもない。

がんリスクの推定には現行のリスクモデルを当てはめただけ。実際にはそのモデルも、原爆という大きな線量を一回に浴びた被爆者の寿命調査から得られたデータの、さらに高い線量域(しかも有意差が得られているのは0.1Gy程度以上)でのデータを低線量まで外挿したものをベースにしたものだから、CT(〜0.1Gy)にそのまま適用できるかという議論があるようなもの。今回の論文が、このモデル適用が妥当なものであるかどうかを論じた論文であれば、タイトル後半も正しい見出しということになるが、そのような論文ではないのだから、いったい何を考えているのやら。


さて、元の論文はArchives of Internal Medicineのサイトから入手可能だったので、その内容を確認してみた。「Radiation Dose Associated With Common Computed Tomography Examinations and the Associated Lifetime Attributable Risk of Cancer」が、「米サンフランシスコの4病院が行った研究」の論文、「Projected Cancer Risks From Computed Tomographic Scans Performed in the United States in 2007」が「2007年に米国で行われた7200万回のCTスキャンが原因で、今後2万9000人ががん発症する可能性があると指摘した」という「もう1つの研究」の論文である。また、同誌には解説記事「Cancer Risks and Radiation Exposure From Computed Tomographic Scans」も掲載されているようである。


さて、まず一個目の論文の内容に言及した部分のうち、

現在の検査で通常照射される放射線量は、中央値でさえ、想定されていた値の4倍であることがわかったとしている。

のくだりは、全部読んだわけじゃないんだが、斜め読みと検索の限りでは特定のCTの話であって、全体の話じゃないように思うんだがなあ。

Yet we found that the median dose of a routine abdomen and pelvis CT scan was 66% higher, and the median dose of a multiphase abdomen and pelvis CT scan was nearly 4-fold higher.

ただ、これはArchives of Internal Medicineの解説記事にそれっぽいくだりがあるため情状酌量の余地があるかもしれない。

Even the median doses are 4 times higher than they are supposed to be, according to the currently quoted radiation dose for these tests.


問題なのはここ。強調は引用者。

同研究は、冠状動脈をCTスキャンした270人のうち、40歳の女性1人がCTスキャンが原因でがんを発症したとしている。

あほかといいたい。元の論文の要旨にはこうある。強調は引用者。

An estimated 1 in 270 women who underwent CT coronary angiography at age 40 years will develop cancer from that CT scan (1 in 600 men), compared with an estimated 1 in 8100 women who had a routine head CT scan at the same age (1 in 11 080 men).

リスクとして、40歳で「冠状動脈をCTスキャンした」女性の場合には、270人に1人の割合で、がんを発症するリスクがあると推定されるとしている部分である。それを過去形で、確定した事実のように書いているものだから、誤解を撒き散らすだけの悪質なデマゴーグとなっている。


基本的にこのような感じで、「放射線=がん」という偏見のままに、思い込み満載で適当に解釈した記事であるため、ばかばかしいのでこのあたりにしておくが、末尾のほうにある

研究者らは、放射線の照射に起因するがんは、照射治療の20〜30年後に発症することがわかったと述べ、

多分これも言ってない。BEIR VIIのモデルで照射線量・被曝線量からリスクを推定した記事であって、被曝した方を対象に追跡して健康影響を調べた論文ではないのだから。


英文記事の翻訳で元の記者がバカなのか、この記事を作成した記者がバカなのかは知らないが、どちらにせよバカに記事を書かせないでほしい。

この「ホットスポット」の放射線で本当にがんが出来るの?

改めて中村論文について。

この論文ではラジウムを中に含む含鉄タンパク質粒子が肺の中の一点に留まって放射線を発し続ける「ホットスポット」が、発がんを引き起こすと主張している。ただ、具体的にどのような線量だからどの程度リスクが上がると想定できるとか、そういうことは全然述べていない。


しかし、そもそも「ホットスポット」でがんが顕著に増えるのか?


それについて、まず このサイトをご覧いただきたい。沈着した粒子が周辺の組織に大きな線量を与えるから、その発がん影響は均等に分散した場合より大きいとする説を「ホットパーティクル説」というが、

この説はその後世界的に行われた調査研究により否定された。

30年も前に否定されちゃってるんである。


正確に言えば、ホットスポットの被ばくがあったからって、均等被曝の場合よりリスクが高いという可能性は否定されているのである。


では、そもそもこのケースではどの程度リスクが高まっているのだろうか。

論文中では、含鉄粒子中にはラジウムが海水中の10の6〜7乗高い濃度で含まれると書かれている。その含鉄粒子の量だが、ここが良く分からない。とりあえず上に引いた図(肺の乾燥重量中の鉄の量)で代用して計算すると、これが10のマイナス6乗〜3乗のオーダー。単純に掛け算すれば、肺組織全体では海水中の10の4乗程度多い量ということになる。

海水中のラジウム濃度は1リットルあたり0.0033ベクレルとのこと(原子力情報資料室から引用)。したがって、肺の組織1kgあたり最大10ベクレルのオーダーという計算となった。


それではそのリスクはどうか。原子力情報資料室の記述には、「ラジウム10,000ベクレルを吸入した時の実効線量は22ミリシーベルト」とある。したがって、肺の組織が受ける線量は、10マイクロシーベルトのオーダーということになろう。

ところが、放射線の発がん影響については、100ミリシーベルト以下では有意に増加するという証拠はないとされている。今回の含鉄タンパク質に含まれるラジウム由来の放射線の与える線量は、その千分の一以下である。


顕微鏡レベルの粒子に蓄積した放射性物質由来の放射線程度でがんが有意に増加するとは思えませんな。*1


なお、この項で行った計算は、とてもラフな計算なので、ご指摘は歓迎します。

*1:この著者は生物方面がご専門じゃないご様子なので、正直なところ仕方ないとも思う。お医者様でさえも放射線科医の方以外だと、放射線=がん的に考えているケースがありげな感じだし。

煙草と肺がんが無関係だって誰が言ったの?

7月28日に「岡山大の中村栄三教授(地球宇宙化学)」の成果として、「石綿吸引で肺にラジウム蓄積、中皮腫の原因に」(見出しおよびリンクは読売新聞)という報道があった。この記事にある「アスベスト石綿)の吸引や喫煙などにより、強い放射線を出すラジウムが濃縮され、肺に蓄積する」という文言等を、どうやら「喫煙やアスベスト無関係で、肺に鉄分が溜まるのを真因として発がんリスクが上がる」と解釈する人々がいるらしい。


この中村教授の成果は、「Accumulation of radium in ferruginous protein bodies formed in lung tissue: association of resulting radiation hotspots with malignant mesothelioma and other malignancies 」という論文にまとめられたもので、この論文は無料で公開されている。ならば、本当は何を言っている論文なのかを、実際にこの論文にさかのぼって確認してみた。


まずそもそも、この論文は「たばこ」についての論文ではない。アスベスト中皮腫および他の悪性腫瘍(要は「がん」)を起こす機構に関する仮説を提唱している論文なのだ。

肺に入ったアスベストは、鉄を含むタンパク質*1で覆われていることが多い。この含鉄タンパク粒子の形成が、アスベストによって中皮腫等ができる機構と関係があるのではないかと考えられていたそうだ。

そこで、この論文の著者たちは、6人の悪性の中皮腫の患者さんの肺からその含鉄タンパク粒子を取り出して、その形態や数の特徴に加え、それがどのような元素から構成されているのかについても解析した。


ちなみに、この6人の方のうち、3人が喫煙者、3人が非喫煙者である。喫煙はこのような文脈で出てくるのであり、別段喫煙の影響を主目的にして解析したものではない。しかし、喫煙の影響はきわめてはっきりと現れた。喫煙者の肺にみられる粒子のほうが、非喫煙者のソレよりも大きいというのだ。

図にもそれは表れている。縦軸は肺組織1グラム中におけるアスベストの数、横軸は肺組織1グラム中における鉄含量である。▲で示されている喫煙者のほうが、●の非喫煙者よりも、鉄含量が高いことがわかるだろう。


さらにその粒子に含まれる元素を解析した結果のうちで、著者らはラジウムが濃縮されていることに着目した。これを、粒子近傍の放射線量が高まっていると解釈することで、粒子に濃縮されたラジウムによる放射線の「ホットスポット」の形成が中皮腫発症の機構ではないかと提案しているのだ。


以上の話を喫煙に着目してまるっと言い換えて解釈すれば、アスベストが肺に入ると含鉄粒子がそこに集まってくるが、そのとき喫煙してた方が粒子が大きくなり、含まれる放射線が多くなり、その影響を増大する、という風に言えよう。

これをさらに乱暴に要約すれば、喫煙がアスベストの発がん影響を増強する、そしてその機構には放射線が絡んでいるということを提唱している論文であるといえよう。


これを喫煙が肺がんの機構と無関係だということが分かったという話と解釈して舞い上がっているような人がいれば、本人はおそらく一を聞いて十を知ったつもりでいるのであろうが、その実は、一知半解と思って良いんではないだろうか。



さて、このあともうちょっと続くぞい。

*1:フェリチンはその構成タンパク質の一種

ホメオパシーを裏付ける根本的な基礎論文が発表される(AF)

id:sivad氏の「純水における量子構造伝播作用に関するかなり画期的な論文」によると、ホメオパシーの理論的な基礎となる論文が発表されるようだ。


ホメオパシーのその手の論文といえば、sivad氏も言及しているが、1988年のNature誌の抗体の超極限希釈を行った論文が想起される。この時もずいぶんと興味深く読んだものだったが、結局その後の追試で再現性が得られず、否定された形となった。今回、今週末の「Art.Nature」誌に掲載されるこの論文では、改めて量子物理学的な観点から証明を行い、それに成功したとのことである。

しかし一部の支持者は極めて粘り強く研究を続けており、特に生命エネルギーの研究に多額の助成金を出しているSW財団の協力を得たンドゥール教授らはこの問題に関して量子物理学的な切り口を見出し、今回の発見につながったようです。


教授らは混じりけのない純水に特殊な波紋を生じさせ、黄金率に基づいた回転を一定時間かけることで水分子間の量子構造が安定することを実験により確認。教授自身の意志を水の形状に反映させることに成功しました。

研究の支援を行ったというSW財団については、あまりホメオパシー界隈で聞いたことがない名前であったのでびっくりした。まあ私は量子物理学的なことはわからないが、とりあえず論文を入手して読んでみようと思う。個人的には「スクラッパー」以来のスマッシュヒットである。


なお、上記サイトに記述はないが、権威ある医学誌Lansadにもこの件についての総説がでるらしい。

若干真面目にコバルト60を含んだ鋼材に関して

イタリアの報道でも、まだ数値情報はないとのこと。英語情報も取敢えず今のところ見つからない。なのでどの程度事態が深刻であるのかはわからないが、同様な事象が過去にあったのか否か。


となると、真っ先に想起されるのは台湾の「民生アパート」の事例であろう。

1982年に陸軍化学兵学校で紛失したCo−60線源23.8Ci(8.81×10**11Bq)が、学校の出入規則の緩さのため、勝手に入り込んだ民衆に拾われ、それを金属スクラップとして古物屋に売り、製鉄会社に転売されて鉄筋として再利用された

という経緯により、最終的に10年間で数千人が外部被曝したとされる事例である。


これが広い意味での「中国」だけの事例かというと、あにはからんやアメリカでも同種の事例があったりする。まあ直接的当事者はメキシコだが。

1983年12月メキシコのヤレス(Ciudad Juarez)市で、放射線治療装置が病院の倉庫から持ち出され、スクラップ業者に売却されて解体された。この装置の線源容器はスクラップ業者に持ち込まれる途中で破壊され、その中に含まれていたコバルト60(Co−60)のペレットは運送中に散逸して道路や住宅地に散らばったり、スクラップ業者が売却した製鋼所で屑鉄といっしょに溶解されて数千トンの放射能汚染鉄材となった。この汚染鉄材で作られたスチール製品はメキシコと米国で販売されて、一般市民が被ばくすることとなった。

の事故による被ばく者は数千人に上り3〜7Svの高線量の被ばく者もあったが死者はなかった。この事件を契機に米国では国境における放射能汚染物品の検査体制が整備された。

3〜7Svってハンパない被曝である。短期間に一気に浴びてれば何名かの方は亡くなってても不思議ないくらい。そう思うと、ここの「死者はなかった」ってのは、実際そうなりかねない事態だったという重みのある一文に思える。



今回の事例もおそらく「これはひどい」と称するに値する事態である事は間違いない。またえらくタイムリーであるので、そうしたい気持ちも重々わかる。しかし安易な侮支ネタ*1に堕すべき事例でもないように思える。

*1:どうでもいいがMS-IMEで「支那」って出ない。こういう単語にまで政治持ち込むなよ。これだからMSは嫌いだ。