煙草と肺がんが無関係だって誰が言ったの?

7月28日に「岡山大の中村栄三教授(地球宇宙化学)」の成果として、「石綿吸引で肺にラジウム蓄積、中皮腫の原因に」(見出しおよびリンクは読売新聞)という報道があった。この記事にある「アスベスト石綿)の吸引や喫煙などにより、強い放射線を出すラジウムが濃縮され、肺に蓄積する」という文言等を、どうやら「喫煙やアスベスト無関係で、肺に鉄分が溜まるのを真因として発がんリスクが上がる」と解釈する人々がいるらしい。


この中村教授の成果は、「Accumulation of radium in ferruginous protein bodies formed in lung tissue: association of resulting radiation hotspots with malignant mesothelioma and other malignancies 」という論文にまとめられたもので、この論文は無料で公開されている。ならば、本当は何を言っている論文なのかを、実際にこの論文にさかのぼって確認してみた。


まずそもそも、この論文は「たばこ」についての論文ではない。アスベスト中皮腫および他の悪性腫瘍(要は「がん」)を起こす機構に関する仮説を提唱している論文なのだ。

肺に入ったアスベストは、鉄を含むタンパク質*1で覆われていることが多い。この含鉄タンパク粒子の形成が、アスベストによって中皮腫等ができる機構と関係があるのではないかと考えられていたそうだ。

そこで、この論文の著者たちは、6人の悪性の中皮腫の患者さんの肺からその含鉄タンパク粒子を取り出して、その形態や数の特徴に加え、それがどのような元素から構成されているのかについても解析した。


ちなみに、この6人の方のうち、3人が喫煙者、3人が非喫煙者である。喫煙はこのような文脈で出てくるのであり、別段喫煙の影響を主目的にして解析したものではない。しかし、喫煙の影響はきわめてはっきりと現れた。喫煙者の肺にみられる粒子のほうが、非喫煙者のソレよりも大きいというのだ。

図にもそれは表れている。縦軸は肺組織1グラム中におけるアスベストの数、横軸は肺組織1グラム中における鉄含量である。▲で示されている喫煙者のほうが、●の非喫煙者よりも、鉄含量が高いことがわかるだろう。


さらにその粒子に含まれる元素を解析した結果のうちで、著者らはラジウムが濃縮されていることに着目した。これを、粒子近傍の放射線量が高まっていると解釈することで、粒子に濃縮されたラジウムによる放射線の「ホットスポット」の形成が中皮腫発症の機構ではないかと提案しているのだ。


以上の話を喫煙に着目してまるっと言い換えて解釈すれば、アスベストが肺に入ると含鉄粒子がそこに集まってくるが、そのとき喫煙してた方が粒子が大きくなり、含まれる放射線が多くなり、その影響を増大する、という風に言えよう。

これをさらに乱暴に要約すれば、喫煙がアスベストの発がん影響を増強する、そしてその機構には放射線が絡んでいるということを提唱している論文であるといえよう。


これを喫煙が肺がんの機構と無関係だということが分かったという話と解釈して舞い上がっているような人がいれば、本人はおそらく一を聞いて十を知ったつもりでいるのであろうが、その実は、一知半解と思って良いんではないだろうか。



さて、このあともうちょっと続くぞい。

*1:フェリチンはその構成タンパク質の一種