この「ホットスポット」の放射線で本当にがんが出来るの?

改めて中村論文について。

この論文ではラジウムを中に含む含鉄タンパク質粒子が肺の中の一点に留まって放射線を発し続ける「ホットスポット」が、発がんを引き起こすと主張している。ただ、具体的にどのような線量だからどの程度リスクが上がると想定できるとか、そういうことは全然述べていない。


しかし、そもそも「ホットスポット」でがんが顕著に増えるのか?


それについて、まず このサイトをご覧いただきたい。沈着した粒子が周辺の組織に大きな線量を与えるから、その発がん影響は均等に分散した場合より大きいとする説を「ホットパーティクル説」というが、

この説はその後世界的に行われた調査研究により否定された。

30年も前に否定されちゃってるんである。


正確に言えば、ホットスポットの被ばくがあったからって、均等被曝の場合よりリスクが高いという可能性は否定されているのである。


では、そもそもこのケースではどの程度リスクが高まっているのだろうか。

論文中では、含鉄粒子中にはラジウムが海水中の10の6〜7乗高い濃度で含まれると書かれている。その含鉄粒子の量だが、ここが良く分からない。とりあえず上に引いた図(肺の乾燥重量中の鉄の量)で代用して計算すると、これが10のマイナス6乗〜3乗のオーダー。単純に掛け算すれば、肺組織全体では海水中の10の4乗程度多い量ということになる。

海水中のラジウム濃度は1リットルあたり0.0033ベクレルとのこと(原子力情報資料室から引用)。したがって、肺の組織1kgあたり最大10ベクレルのオーダーという計算となった。


それではそのリスクはどうか。原子力情報資料室の記述には、「ラジウム10,000ベクレルを吸入した時の実効線量は22ミリシーベルト」とある。したがって、肺の組織が受ける線量は、10マイクロシーベルトのオーダーということになろう。

ところが、放射線の発がん影響については、100ミリシーベルト以下では有意に増加するという証拠はないとされている。今回の含鉄タンパク質に含まれるラジウム由来の放射線の与える線量は、その千分の一以下である。


顕微鏡レベルの粒子に蓄積した放射性物質由来の放射線程度でがんが有意に増加するとは思えませんな。*1


なお、この項で行った計算は、とてもラフな計算なので、ご指摘は歓迎します。

*1:この著者は生物方面がご専門じゃないご様子なので、正直なところ仕方ないとも思う。お医者様でさえも放射線科医の方以外だと、放射線=がん的に考えているケースがありげな感じだし。