ポロニウムの致死量とwikipediaの罪

というわけで、ポロニウムについての計算をしてみた。


科技庁告示の「放射線を放出する同位元素の数量等」から計算する限り、ポロニウム210の放射毒性としての致死量は、10ngのオーダーであるようだ。非常に毒性が強いのは確かであるらしい。


ただ、ポロニウムの致死量としては0.1ngという数値があり(報道などで使われたらしいが、詳細はまだ不明)、これが正しいならば、化学毒性のほうがそれでも強いということになるのだろうか。まあここまでくればどっちでも変わらない気もするが。


問題は、ウェブ的に「致死量一兆分の7グラム」が出回りつつあることだ。


「正しい」数値を引いているヒトももちろんいる。「桜井 淳の新・市民的危機管理入門」では「11月26日のテレビ朝日「サンデースクランブル」でひと言‐殺しになぜポロニウム210が利用されたか、致死量は百億分の一グラム‐」のタイトルにある通り、0.1ngオーダーであることを明示している。ところが、この数値、このサイトくらいしかヒットしない。*1ポロニウム 致死量 兆」が多数ぞろぞろ出て来る一方で、である。

1213追加:金輪際この桜井淳なる人間は信用しない。タイトル及びサイトの記述で「致死量」とあった部分を、何の断りもなしにこっそり「有害量」なる訳の分からない言葉に置き換えている。なんだこりゃ。自分の発言に責任を持てぬ人間の言葉等どうして信用できよう!!
正確に言えば11月28日に追記したと言う一文はあるが、確かリアルタイムに見ていた時は、これのことではなかったと思った。ここは不確かだが、いずれにせよ、テレビに発言したものの誤謬を訂正するんなら、最低限明示的に行うべきではないのか?


参考までに変更後のキャッシュ


この「誤報」の原因の大きな部分を日本語版wikipediaのポロニウムの説明がしめているのではあるまいか。


この書き込みを行っている時点で記述にある

計算上わずか47ng(1億分の4.7グラム)で50%致死線量(4 Sv)の被曝を受けることになる。最大許容身体負荷量は6.8 pg(1兆分の6.8グラム)とされている。

であるが、一応致死量はそれよりも単位が一個上だとは書いてあるものの、まだ誤解を生みやすい状況にあるように思う。少なくとも1兆分の7が致死量だという記述を先に見た人にとっては、それを確認させる結果となるだけではなかろうか。そもそも先にも述べたように「身体負荷量」って数値は最近つかわないようなのだから、削っちゃえば良かったのに。


さらにそもそも、履歴をたどると、2006年11月25日 (土) 14:47の版でMzaki氏が訂正するまでは、

致死量は1兆分の7gと言われている。

としか書かれていなかったようなのだ。誤解を招くと言う以前に完全に誤謬である。


この記述は固定IDを持たない218.137.158.86からの2006年7月16日 (日) 13:38の版から現れる。まったく匿名をいいことにいい加減なことを書いてまあ。


以上、一応まとめ

ポロニウム210の

  • 放射毒性としての致死量は、少なくとも10ngのオーダー以上*2
  • 化学毒性を含めた致死量は、0.1ngのオーダー【追記および2006-12-01のエントリ参照】
  • 一兆分の7グラム(7pg)は致死量ではない

追記:英語版wikipediaによれば、致死量は0.12μgとのこと。ただ、英語版wikipediaで扱っているのは放射毒性として10Svを与えるような量で計算した値であり、実際の致死量を書いてあるわけではない。


追記2:英語版wikipediaの方が全体的に細かくて信頼性高いぞ。


追記3:おお、 2006/11/30 17:03:22付けで、原子力情報資料室が「ポロニウム-210について」という文書を出している。こういうマメさは評価すべきだろうな。

*1:そもそも報道の数値の出所がこの方?

*2:イタリックは追記部分。吸入と摂取の違いなどを考慮した差異の中の最小値での計算であること、取り込んだすべてが標的となる器官に行くわけでもないこと、Svというのが根本的に確率的影響を表すための換算が入っており、このような急性影響を表すためには不適切である可能性があること、および追記、英語版wikipedia、12-01付エントリにまとめたような内容から、追記。