『古代のイギリス A Very Short Introduction ROMAN BRITAIN』ピーター・サルウェイ/訳・解説 南川高志

英語のタイトルどおり、ローマ時代のイギリスについての簡単な通史に、訳者の南川高志氏が解説「イギリスで「古代ローマ文明」を楽しもう」を付けたもの。


訳書のシリーズタイトル「一冊でわかる」が誇張表現になっていないと思えるほどに、訳部分も解説も両者ともに簡潔かつわかりやすく、非常に良い入門書である。


なによりも訳書の方で歴史を概観させてくれるのみならず、解説の方では、その歴史を現代のイギリスで体験するためのローマ遺跡案内ガイドブックをあたえてくれている。ローマ時代に若干の興味があり、かつ、英国に行く機会のある人は、必読。2年前にこの本を読みたかった。まあ2005年12月22日発行なんで出ていなかったんだがね。



英国はローマに侵略を受けた地域であったにもかかわらず、現代英国人はそのローマの文明に連なる意識が強いことが興味深い。

そのローマ時代のものすごさというのは、このような文章からひしひしと感じた。

ローマ支配化のブリテン島では、第一級の芸術作品が、ガリア地方南部などと比べればかなりわずかではあるが、しかしたしかに存在する。一方、中級のものとなるとたいへん豊かにあって、大量生産された物品を自由に使うことができたことが十分に明らかである。(中略)ローマ風の陶器を見るだけで、それ以前の状態やそれ以後に到来したものとはまったく異なる「使い捨て社会」の存在をはっきりと看取できるのである。

「使い捨て社会」だよ。それ以外にも、

五世紀の初めに、規模の大きい陶器業が明らかに突然の終焉を迎えている。四二〇〜四三〇年までに、貨幣は日常使用されることがなくなった。

といった貨幣経済の普及や、建物の規模などがローマ時代の水準に達し、超えることが出来たのは近世だか近代に入った、かなり近い話だったという記述もあり、ローマ文明の高みというものが感じられた。



この本に関する情報としては:

教授が一九八一年に刊行したRoman Britain (Oxford at the Clarendon Press)は浩瀚なローマ時代ブリテン島に関する概説書で、一九八四年にオックスフォード大学出版局からペーパーバック版として出されて以来今日まで読み継がれている、ローマン・ブリテンに関してはもっとも重要で一般的な書物である。この書物をふまえ、多くの写真・イラストを添えたThe Oxford Illustrated History of Roman Britainが一九九三年にやはりオックスフォード大学出版局から刊行されている。
ここに訳出した書物がVery Short Introductionシリーズの一冊として公刊されたのは二〇〇〇年のことであるが、本文テキストはすでに一九八四年にThe Oxford Illustrated History of Britainの中で公にされたものである。

とのことである。とはいえこの本は、「単に」新しい知見を盛り込んで訂正を加えたという、その道の初学者に向けての価値以上に、その解説によって、少なくとも一般向けの価値を何倍にも高めているように思う。図書館で借りた本であったが、真面目に手元においておきたいかもしれない一冊である。


古代のイギリス (〈1冊でわかる〉シリーズ)

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