黒岩徹『イギリス式生活術』岩波新書

p.14 ドント・パニック

『「パニックにならない」ことが紳士・淑女の条件』
『パニックにならないことは、とりわけ戦場のような極限状況において必要である。将校を養成するサンダーハースト陸軍士官学校では、将校の卵たちに「上唇を固くせよ」と教える。』

p.15

『「上唇を固くせよ」との言葉は、パブリック・スクール(全寮制の私立校)でもしばしば使われる。この学校の卒業生は、社会の指導的立場に立つことが多く、ことにあたって冷静な判断を求められるからだ。「パニックになるな」との教えと同義語である』

p.43 フェアの精神

『フェアの精神が日本で定着していない原因の一つに、フェアという言葉が公明正大、公正だけでなく、公平とも訳され、平等と勘違いされたこともあるのではないか。』
『フェアは平等を目指したものではなく、一人一人の力をそれなりに評価するという考え方をその中に含んでいるのだ。平等主義は、実はフェアの精神とは対極にあることも、考えておくべきだろう。』

p.47 マナーとは

『バッキンガム宮殿での晩餐会で思い出したことがある。食事中に肘をつくことはマナー違反であるが、もし肘をついて食べている招待客がいた場合、女王は「お体が悪いのですか」と尋ねて注意を促すという。言われた方は、ここでは恥じ入らなければならない。「いいえ、別に悪くはありません」と答えてまだそのままの姿勢なら、招待された客としては落第である。』

p.73 愛情の表現

『シャーマ博士*1』は「科学はわれわれがすでに知っていることを証明するだけです」と言った。』
『永年の統計では、毎日仕事に行くときに妻にキスする夫は、しない夫と比べて、病欠が少なく、交通事故にあう率も少なく、五年長く生きるという。』

p.147 携帯電話とインターネット

『スペインでインターネットを利用しているカトリック教徒たちが、インターネットをつかさどる聖人を認定してほしいとバチカンにかけあっているという。聖人の候補者は、西暦五六〇年スペインのセビリアに生まれた聖イシドール。二十巻にわたる百科事典を著し、教育機関の養成に力を注いだ牧師である。博識な聖イシドールをインターネットの聖人にすれば、インターネットの操作で困ったときに、聖イシドールに祈れば助けてくれるかもしれないのだ。』

p. 169 動物狂想曲

*2だがもっと過激な計画もある。オーストラリアの野生動物専門家グラハム・ウエッブ氏は絶滅しつつある動物を人間が「食べて、皮をとり、売るべきだ」と提唱した。カンガルー、コアラ、カモノハシや希少な鳥類などは、それが可能である。もしこれらの野生動物を利用できれば、人間は彼らの居住地帯を守り、彼らを増殖させる手段をとるはずだ。種の絶滅を防ぐには、経済的インセンティブ(刺激)を与える必要があるというのだ。』

イギリス式生活術 (岩波新書)

イギリス式生活術 (岩波新書)

*1:ロンドン精神医学研究所のトンモイ・シャーマ博士

*2:前段でのブラジルの例で、海亀が産卵しに来る海岸で、地元漁師による密猟が盛んだったのを、民間環境保護団体の呼びかけで観光資源化し、結果的に密漁が激減したことを受けて。