『〜紙芝居からSFアートまで〜 武部本一郎展 永遠のヒーロー・ヒロインの世界』


標記の展覧会*1が催されていると知り、弥生美術館・竹久夢二美術館へ行った。


■まずはこの美術館について。

思えば、かつての行動圏のど真ん中にありながら、当時は夢二が近寄るのも嫌なくらいに大嫌いだったために、ついぞ訪れることのなかった美術館である。

今も嫌いは嫌いであるが、当時ほどの毛嫌いはせずにすむようになった。併設の竹久夢二美術館に足を踏み入れて、ざっと作品を眺めていても平気なくらいには。

今回わかったことは、嫌いなのは変な目の女性だけ。他のイラストやグラフィックデザインみたいなものについては、面白いと思えたものも多数あった。

収穫は収穫だが、かつてアレほど嫌いだった夢二だけに、まだ地雷が潜んでいるかもしれないから、好んでみようとは思わないな。


■で、本題。武部本一郎である。

私がこの画家を意識したのは、弥生美術館・竹久夢二美術館の開催中の展覧会のページより引用した写真にある、『火星のプリンセス』の扉絵であった。


この愁いを帯びた、そしてちょっと扇情的でありながら単純なエロに堕していない美女に、子供ながら心をわしづかみにされてしまった。


この方の絵については、漫画家山本貴嗣氏の評がぴったりだと思っているので、少し長めになるが、それを引用する。

火星や金星、異世界や超古代に生きるうるわしい美女たち、たくましい戦士たち、怪しい魔道士、異形のモンスターから不思議な飛行艇まで、ありとあらゆるものを画伯は描いた。そしてどれもが素晴らしかった。
火星シリーズの翻訳家、厚木淳氏のインタビュー記事に、当時武部氏はSFなど読んだことも無く「初体験」であの絵を描いたとあったように思うが、事実とすれば恐るべきセンスである。武部画伯以外にもそれらのイラストを描いた人は何人もいたが、どれも画伯には及ばなかった。少なくとも日本においては、他の絵描きを何馬身も引き離した独走態勢だったと思う。
バローズやハワードのカヴァーを描いた絵描きは海外ではかのフランク・フラゼッタを始め様々な名人がおり、ある部分では武部画伯を凌駕しているとは思うが、こと火星のプリンセス・デジャー・ソリスを始めとする乙女達に関しては、私は武部画伯に軍配を上げる。
武部画伯を凌ぐ技術や画力を持った人は他にもいるし、これからもまた出るだろう。しかしあの人の描く絵。そこにいるキャラクターたちに漂うなんと言うか独特の「品」とでも言うもの。あれは誰にもマネできまい。あれは、あの人ならではのもの。


今回の展示では、このSFアート以外にも

初期に手がけた街頭紙芝居や、「ガラスのうさぎ」「かわいそうなゾウ」に代表される児童書のカバー絵・口絵・挿絵

が展示されている。「ガラスのうさぎ」の表紙絵が武部本一郎だったとは知らなかった。他にも江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ単行本表紙、世界の偉人の伝記など、かつて小学生時代に図書館の虫だったころに、もしかしたら読んでいたかもしれないようなものが多数展示されていた*2武部本一郎画伯との出会いが『火星』の前からあったことを知ったのは、うれしい驚きだった。


なによりも驚いたのは、小学生時代に読んだ本の中でも最も印象深かった本の一つであった子供向けSF小説光る目の宇宙人」(J・ハンター・ホリー/南山宏訳、偕成社 SF名作シリーズ20、1970年4月)の、その本が展示されていたことである。
この、心に刻み込まれてしまった浮かぶ目のイラストが、武部本一郎のものであったとは。このころに嗜好が刷り込まれてしまったのかも知れぬw。



暑い中訪れたために、すみずみまで舐める様に観る程の体力がなかったのは残念であるものの、十分に堪能した。

実際のところは、知ったのは随分前だったし、9月いっぱいやっているとのことであったので、この酷暑の中に出かけることはなかったのだが。

■何はともあれ、この画家をご存知な方、このイラストをご存知な方にとっては、非常に価値のある展覧会ではないかとおもう。以下に美術館のサイトにある情報を転記しておく。

会期: 2007年7月7日(土)〜9月30日(日)
開館時間: 午前10時〜午後5時
休館日: 月曜日(但し、7/16、9/17、9/24(月・祝)は開館、7/17、9/18、9/25(火)休館)
料金: 一般800円/大・高生700円/中・小生400円

*1:リンクは開催中の展覧会のページ

*2:その一部は確実に、読んでいたものであったと思う。