逆ギレ

猫猫先生の定義によると、「逆ギレ」の語義は以下のようなものであるらしい

これは本来、AがBを叱責したりしている時に、当初は、すみません、などと低姿勢だったBが「なんでそこまで言われなきゃならないんだ」と怒り出すといった状況で使われる言葉だった。

その事例としては以下のようなものが紹介されている。

たとえば、全面禁煙などとバカなことになっている地上駅のプラットフォームで私が喫煙していて駅員が注意しても、私は最初から「なんでいけないんだ」と怒るから、「最初は低姿勢」という条件に当てはまらないが、まあ駅員としては「逆ギレ」と言ってもおかしくはあるまい。


だがちょっと待ってほしい。少なくとも「低姿勢」などというのは別段必要条件というものではなかろう。


逆ギレとは、本来「切れ」られてしかるべき立場にある、非のある側が「逆」に、「切れる」から「逆切れ」なんである。先生の挙げておられる事例は、何の留保をつける必要もない、紛うことなき「逆ギレ」である。


そんなの手前の勝手な言語感覚だろうなどと思われてもなんなので、ウエブソースではあるものの、語義を提示しているものをいくつかご紹介しておこう。

逆ギレ(ぎゃくぎれ)−日本語俗語辞典

逆ギレとは、注意を受けた人が指摘した人に怒ること。

【年代】 平成時代〜  【種類】 若者言葉

逆ギレ−解散宣言・「正しい日本語を守る会」

私は「逆ギレ」というのは「本来は怒られる立場の人が、逆に怒ること」を指すのだと思っている。

さて、猫猫先生の当該エントリの趣旨は、そのタイトルが「「逆ギレ」の濫用」であるところを見ても、定義を示すだけでおしまいなのではなく、ましてや、先生はこと煙草のことになると、その場のルールやマナーよりもなによりも自分の信念を優先されるということを示すために書かれたのではないと思われる(多分ね)。


本論部分では、先生はこのように書かれている。

ところが最近では、別にそういう状況でもないのに、誰かが、人から何か問われて、いくぶん攻撃的な口調になるだけで「逆ギレ」というようになってしまった。


上記に引用したサイトでも、同様な記述があり、「逆上」との混同ではないかという可能性が提示されている。

普段からキレやすい人が注意を受けて逆に怒り出すものだけでなく、普段はおとなしいがひどく注意を受ける間に堪忍袋の緒が切れて怒り散らすといった場合もある。後者が転じ、普段いじめられている子が逆上して暴れ出すことも広義に含まれる。また、逆ギレと逆上の混同から間違いを正すため、怒るべくして怒っている人を含めて使う人もいる。(日本語俗語辞典より)

ところが、全然「逆」ではなく、ただブチ切れた人を指して「逆ギレした」と表現する人もいる。おそらく、「逆上」という言葉と混同されていることと思う。が、真実はどうなのであろうか。(解散宣言・「正しい日本語を守る会」より)


しかし、私には、単なる「逆上」との混同と言うよりも、もう少し積極的な意味があるのではないかと感じられる。

すなわち、無意識か意識してかはともかく、相手に「逆」の烙印を捺すことにより、相手に非があることを印象付け、自らの正当性を主張するために用いる用法ではないかと思うのだ。

更に言えば、猫猫先生のご使用になったフレーズをお借りすれば『攻撃的な口調になるだけで』それ自体が「非」となってしまうという、極めて日本的な文化を背景としている可能性だってあるのかもしれない、などと愚考してみた次第である。


そう思えば、単なる誤用による「濫用」というより、そこに何か意味があるような気もしてきたりして。


■根暗

ちなみに「根暗」に関しては比較的早い段階で、当初の「表面と異なり根は」ではなく、「根っこから」『暗い』って感じの意味に変わってしまったような気がする*1

「根」が地中にあるものであるところから、「暗い」との親和性が強すぎたんではあるまいか。

*1:はてなキーワード「ネクラ」にも同様な記述がある。ご参照あれ。