「違法ドラッグよりも酒やタバコのほうが人体に有害であることが科学的に証明される」ってほんと?

「◆空を見上げて犬は今日も歩く」というサイトで、「◆違法ドラッグよりも酒やタバコのほうが人体に有害であることが科学的に証明される」という記事があった。同サイトが報道記事を翻訳したものによると、

イギリス・ロンドンで行われた最新の研究結果によると、アルコールやタバコのほうが、マリファナやエクスタシーなどのいわゆる違法ドラッグよりも健康に悪影響を与えることが明らかになったという。

とのこと。ただ、続く

この研究を行った研究者グループは、実際に麻薬などの社会生活に悪影響を与える物質や、健康に有害とされる物質をランキング形式にしてリストアップした。その結果、上位10位以内にアルコールやタバコがランクインし、違法ドラッグ類よりも上位であった。

という部分を読むと、証明した、というよりは、以前麻薬との比較を行った情報を探したときに見つけていた、マリファナ擁護サイトの記事「英科学技術委員会 ドラッグ新分類を提言 カナビスはアルコールやタバコよりも害が少ない」のことではないかと思えてきた。


Lancetの記事ということで、検索。原文が無料で入手できた(無料登録が必要)。そこにある図を見れば、確かに上記と同じものである。
したがって、「違法ドラッグよりも酒やタバコのほうが人体に有害であることが科学的に証明」されたという論文ではなく、新しい分類基準を示したという記事として見るべきものであり、上記マリファナサイトからその紹介を引用すれば:

イギリス下院の議員で構成される科学技術特別委員会(House of Commons, Science and Technology Committee)は、新しいドラッグ分類についての提言をまとめ、31日に報告書 を公表した。

委員会は、現在のドラッグ分類が科学的評価ではなく古い仮説をベースにしていると指摘し、現行のABC分類をもっとドラッグの害そのものを反映したものに変更すべきだと提言している。

報告書の分類システムによると、違法ドラッグの一部はアルコールやタバコよりも害のレートが低くなっている。報告書では、分類にアルコールとタバコを加えたのは、一般の人たちが「害の比較を実感できる基準」として理解しやすくするためだと説明している。

アルコールは合法であるが、新しいスケールでは高い位置にランクされている。これは、病院などの救急部門や成形外科を訪れる人の半数がアルコール関連で、また、しばしば暴力に発展したり、多くの自動車事故の原因になっているためだ。一方、タバコについても、病院に訪れる病気の40%、ドラッグ厚生施設の60%が関連していると見積もられている。

今回の分類ではアルコールもタバコもB分類に相当することになるが、ブレイクモア教授は、アルコールとタバコをランク表に入れたのは 「害のレベルの指標」 にするためだと語っている。「アルコールを禁止すべきだと言いたいわけではなく、害の比較指標として一般の人にも実感してもらえるようにするためです。

という風に認識すべき論文であるように思われる。


ついでに言えば、違法ドラッグといってもタバコや酒よりも害が低いとされるのはLSD、エクスタシー、マリファナ(cannabis)*1などであり、ヘロインやコカインはリストの堂々トップである。その意味でも(報道の原文が「Alcohol, tobacco more dangerous than illegal drugs, study says」であるとはいえ)、このタイトルはmisleadingである。

*1:もともと旧分類でもC分類