三景艦は役立たずだった。しかし…

ハードSFと戦争と物理学と化学と医学 2007年 03月 10日  日清戦争:三景艦は役立たずだったcache

清国海軍の主力戦艦、定遠鎮遠に対抗する形で建造された、日本軍の主力戦艦、<三景艦>「厳島」「松島」「橋立」の三艦は、清国戦艦の30センチ砲に対抗する32センチ砲を装備したが、それぞれたった1門しかなく、小さな艦に分不相応な巨大砲を載せてトップヘビーになったがため、砲塔を旋回させると船が傾くという具合で、1発も主砲弾は命中しなかったのである。

細かいことを言えば三艦で13発発射した中で一発命中したらしいよ。意味が無かったことには間違いないが。


でも、

実は、ここで、すでに「大艦巨砲主義」のほころびが見えるわけだが、各国がそれに気づくまでは、実に半世紀かかった。飛行機や潜水艦が実用化される以前に、すでに巨大戦艦は不要になっていたのである。

これは赤字で強調して書いているけど、ここから大艦巨砲主義の綻びまで飛躍するのは、ちょっと無茶が無いかなあ。

巨大戦艦が役に立つのは、結局、敵戦艦と一騎打ちになるような局面でしかないが、黄海海鮮のように、運動性に勝る小型の艦艇に取り囲まれたら、少数の巨砲など、まったく役に立たない。
<大和>1隻を沈めるには、飛行機も戦艦も必要なく、フレッチャー型駆逐艦が10隻もあれば十分だっただろう。取り囲んで翻弄しつつ、魚雷を放てばいいのだから。

というが、たとえばそれよりずっと後、第一次世界大戦でのユトランド沖海戦の時点においてさえ、「速度は装甲」だけでは勝てないことが、戦艦に対したときの巡洋戦艦の惨状において示されたのではないのか。


いくらなんでも「フレッチャー型駆逐艦が10隻」ってのは無茶がすぎると思うなあ*1日本海軍の対空における管制装置はひどかった*2らしいが、いくら駆逐艦が少々小さくて少々速くても、所詮対艦なんだから、アウトレンジできるでしょ。アイオワ級戦艦に準じるような射程と打撃力と射撃管制を持つ駆逐艦*3と相対したのならともかく。



2007-03-23にお返事をいただきました。(cache)


「補助艦艇を大量に」とおっしゃいますが、まず現実から言えば、補助艦艇にも軍縮条約の網がかかってたんですけどね。まあそういう返事は望まれてはいないとは思いますが。いずれにせよ孤艦で艦隊を相手にするなんてことは、通常考えないわけです。必ず複数を作って、補助艦艇を添えますよね。孤艦よく奮闘すなんてのは宇宙戦艦ヤマトや仮想戦記の世界であって。


ただし日本海軍が補助艦艇を軽視し過ぎってのは同感。シーレーン保護もろくにできない艦隊決戦一本やりの海軍ってのも(当時の諸情勢でやむを得ざる所があったということは重々承知した上で尚)やはり問題があったと思いますから。


で、大和vsフレッチャー型駆逐艦10隻なんてのも、本来はあり得ないケースではありますが、一応お答えします。

フレッチャー型駆逐艦酸素魚雷を装備していたと思ってらっしゃるんでしょうかね。軍オタではないので間違いがあれば指摘して頂きたいけど、第二次世界大戦末期に置いてすら米軍の魚雷の射程は5km程度。しかも最大射程からの撃ち逃げなんてのは、まともに当たらないものであって、日本海軍の駆逐艦乗りにとっては堅く戒められていたようなことを読んだ記憶があります。で、大和の主砲の射程は?30kmほどあったと思いますが。「当たらなければどうということはない」等論外。駆逐艦などは大和程の主砲の斉射を受ければ、至近弾でも戦闘力がかなり削がれるような艦艇です。そして、大和の射程に入ってから、魚雷の射程に入るまで、フレッチャー級がその最大速度で直線的に近づいてきても20〜30分程度かかります。だいたい有効弾を得るまでに試射3回として、10分弱あれば得られる計算になります。アウトレンジの時点で、少なくとも3隻は戦闘能力を失っている計算になりますね。その時点では副砲も戦闘に参加可能になっておりますし、そう一方的なケースにはなりそうもないと思いますが。


やはり駆逐艦に比べても圧倒的な高速をもち、大幅にサイズが小さく、そして圧倒的な数で襲いかかることができる飛行機が有効な打撃力をもった時点以前では、戦艦の「大艦巨砲」ってのはそれなりの意義をもっていたんだと思います。そうなると仮想ではなく実際に代案を示せるようになったのは、第一次世界大戦以後の話でしょうね。実際にそれをシステマティックに艦隊編成にまで結びつけたのは米軍ぐらいですが(日本の方が戦果は先ですけど、詳細を見るとえらく不徹底ですからねえ)。


って読んできて、根拠が架空戦記ですか。ま、いいですが。


結論:総論賛成極論反対

*1:参考までに言えば、大和と同型の艦体を持つ信濃は、潜水艦魚雷を4発も片舷に受けたにもかかわらず、おそらくちゃんと工事が完成してから戦場に出ており、また乗組員の錬度さえ十分であれば沈没することは無かったとされていたはず。

*2:第二次世界大戦の、少なくとも後期における時点において、アメリカ軍のそれと比して。

*3:あるかい!!そんなもの