蒼き狼

finalventの日記にて以下のような記事があった。
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20060807/1154905062

 日本人にとって、モンゴルのイメージカラーは広漠とした草いきれの漂う「蒼(あお)」ではないだろうか。モンゴル民族は「蒼き狼(おおかみ)」の末裔(まつえい)との始祖伝説もある

 ないよ。困ったもんだと岡田先生が言っていたっけ。

さて、何が「ないよ」なんだろうか。引用先のアマゾンの著書紹介を見ても、あまり参考になることが出ていない。
イメージカラーが「蒼」だとした部分が問題なのか、始祖伝説がないのか。それとも単純にモンゴル民族の定義の問題か。



古語において灰色の馬を青馬と呼ぶ。草いきれを「蒼」とし、「蒼き狼」につなげたところにあるのだろうか。早速ぐぐると以下のようなページがあった。
http://homepage3.nifty.com/rosetta_stone/wissenshaft/AN_2/AN_JP_color1.htm

元朝秘史に現れる問題の語は、börtä  cino: と音表記される一方、中国語で「蒼色狼」と訳されている。この中国語訳を根拠に「蒼白き狼」という訳語が流布することになったのだが、cino: は「狼」で問題ないが、肝心の börtä というモンゴル語、それに対応する満州語は、いずれも「まだらの」という意味である。

そこで、中国語辞書を調べてみると、明代初期においては、「蒼」には「白髪混じりの」という意味があり、どうやら、börtä  cino: は、「蒼白き狼」ではなく、「まだら灰色狼」を意味したのではないかと思われる。

へー。灰色でもないんだ。「まだら」狼なんだね。



さらに見ていると、以下のようなページが。
http://ethnos.exblog.jp/m2006-03-01/

…しかし、残念ながら「蒼き狼」は誤訳で、しかもチンギス・ハーンはその子孫ではないのだ。
モンゴル語で「ボルテ」は「斑点のある」という意味である。…だから、ボルテ・チノは「斑(まだら)の狼」という名前なのである。

元朝秘史』の話では、ボルテ・チノとホワイ・マラル夫妻の八代あとの子孫に、ドブン・メルゲンが生まれる。ドブン・メルゲンが死んだあと、その寡婦のアラン・ゴワが天窓から差し込んだ光に感じて産んだ男の子が、チンギス・ハーンの祖先である。チンギス・ハーンはボルテ・チノと血統でつながっていないから、「蒼き狼」の子孫ではないのだ。
祖先が狼であるという始祖説話は、突厥など、いわゆるトルコ系部族に共通の物語である。

(略)

そういうわけで、チンギス・ハーンの祖先の物語は、モンゴル高原を中心とした広い地域の、さまざまな遊牧民に伝わっていた口頭伝承を集めて整理したものである、ということができる。

んま。そもそもテムジンは「蒼き狼」の子孫ではなかったのか。古代日本人が系図をみな天皇の周辺につなげたように、蒼き狼と黄色い牝鹿を核とした周囲に始祖伝説をつなげたってことか?

そもそもこの場合の「始祖」伝説っていったい何なんだろうか?王統の始祖ってだけ?結局モンゴル民族の定義の問題にいたるのだろうか。しかし「モンゴル民族」って血統では定義不能なんではなかろうか*1

*1:チンギス・ハーンによってモンゴルが大拡張したときに、モンゴルになった人の末裔がほとんどだろ?「ユダヤ」民族みたいなものか?