記事は原著論文の要旨に書いてある部分を避けて記述する、テクノバーン

Technobahnに『アゲハの幼虫は鳥のフンに擬態する、東京大学研究グループ』という記事があったので覗いてみた。『2008/2/25 18:41』というタイムスタンプの記事を見ると、

アゲハ(Papilio xuthus)の幼虫はホルモンの影響によって4令時までは黒と白の特徴的な紋様によって鳥のフンに擬態し、最後の脱皮によって葉に溶け込む緑色の紋様に切り替わることが東京大学の研究グループが21日、米科学雑誌「サイエンス」に掲載した論文によって明らかとなった。


この論文発表を行ったのは東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻適応分子機構学研究室の藤原晴彦教授。


藤原教授は、「昆虫の皮膚、卵などのたんぱく質にはGGYGGというアミノ酸構造が含まれるが、従来この構造が何をしているかは不明瞭だった」とした上で「硬いたんぱく質をつくるための構造と考え架橋実験を行った結果、GGYGGがチロシナーゼにより特異的に架橋できることを発見した。この構造を利用してプロテインチップなどへの応用が可能になる」と述べている。

とあった。


タイトルを読んだ後に前半を素直に読めば、『アゲハチョウの幼虫は、若齢時は鳥の糞に擬態し、その後緑の模様に切り替わることが明らかとなった』と読めないだろうか。しかしそんなことは、昆虫少年には周知の事実であって、今更『明らかとなった』というようなものではない。


で、記事の後半を読むと、今度は同論文発表者が、昆虫の皮膚などに含まれているたんぱく質アミノ酸構造GGYGGが、硬いたんぱく質をつくるための構造と考えて実験を行い証明したという趣旨のことが書かれている。


前半と全然繋がってなくね?


これは元論文に当たるしかあるまいと、Scienceのサイトに行ってみた。論文要旨の日本語紹介記事(リンクは多分テンポラリ)にはこうある(強調引用者)。

アゲハチョウの幼虫は変装の名手である。成長の初期段階においては、幼虫は白と黒の鳥のフン紋様をしているが、蝶になる前には生息する葉に似た緑色の隠蔽色なる。研究者らは、この容姿の変化を引き起こすホルモンをつきとめた。幼若ホルモンというこのホルモンは、鳥のフン紋様の成長段階終盤には減少する。幼虫にこのホルモンに似せた化合物を投与すると、緑色の隠蔽色になるのを抑制した

全然話が違うじゃないか。


英語の書誌情報を見ても、著者名の取り違えもないようである。

Science 22 February 2008:
Vol. 319. no. 5866, p. 1061

Juvenile Hormone Regulates Butterfly Larval Pattern Switches
Ryo Futahashi and Haruhiko Fujiwara


確かにテクノバーンの記事にも、冒頭に近い部分に『ホルモンの影響によって』というフレーズがある。しかし完全に従になっていて、埋もれている。これが原著論文要旨のメインだっつーの。


呆れたものだ。