タバコの依存性

「おかしな事を言うな」というサイトの「当事者は投票するな」というエントリのコメント欄に、以下のような書き込みがあった。

JTのサイト上では
依存性は「弱いもの」と明確に口に出して書いてある!

不審に思ってJTのサイトを見てみると、確かに「依存性 > 喫煙と健康に関するJTの考え方 > 成人の責任と選択 > SMOKERS' STYLE > JT delight world 」という階層にそのような記述がある。以下にそのページを引用。はてな形式に従い読みやすいように配置を改変。強調は引用者。

たばこには、弱いものでありますが、依存性があります。実際に、禁煙するのは難しいとおっしゃる喫煙者が多数いらっしゃいます。

依存は、酒(アルコール)・たばこ(ニコチン)・コーヒー(カフェイン)といった嗜好品によるものから、麻薬・覚せい剤といった違法薬物によるものまで、幅広くみられる精神的・身体的状態です。科学的にみた場合、依存の特性としては以下のようなものがありますが、たばこ(ニコチン)の依存性は他の物質に比べて弱いものであることが知られています。


精神依存
ある物質を摂取したいという欲求を強く抱いている状態。
たばこ(ニコチン)の精神依存性は、他の物質例えばコカインやアルコールに比べると弱いことが知られています。
身体依存
身体が物質の作用に適応した結果、物質が体内からなくなっていくと退薬症候(いわゆる禁断症状)が出る状態。
たばこ(ニコチン)の身体依存性は極めて弱く、ヘロインやアルコールのように激しい身体的苦痛を伴う症状はみられません。
耐性
反復使用により物質の作用が弱くなること。その結果として、使用量が際限なく増えていくことがある。
たばこ(ニコチン)の場合、一日の喫煙量は、個人差・状況差はあれ、ほぼ一定しています。
精神毒性
依存と厳密には異なるが関連してみられる、妄想・幻覚・精神錯乱等が起きる状態。
たばこ(ニコチン)にはこのような性質はみられません。


たばこについて「依存症」という言葉が使われることがありますが、私たちは依存と「依存症」とは区別されるべきものと考えます。例えば「アルコール依存症」は「アルコール依存の結果生じた行動異常、精神障害、あるいは臓器障害」と定義されています。このように「依存症」とは、依存の結果としての、精神・身体・行動への影響が著しく医学的・社会的に問題となるような症状を指すものです。


たばこを止めるのが難しいと感じる方が多数いらっしゃることについては、個々の喫煙者が置かれた状況・環境の影響も考える必要があります。たばこは「気分転換やストレス解消に必要」とおっしゃる方も多く、また休日や家庭では喫煙量が減少するとも言われています。たばこを吸う理由、止められないと感じられる理由は人により様々であり一概には言えません。


実際に禁煙に成功された方々がたくさんいらっしゃるのも事実であり、個々人の決意次第で禁煙することは可能です。また一方で、喫煙しようとする方々は、禁煙することは容易ではないとおっしゃる喫煙者が多数おられる、ということを理解しておく必要があります。


さて、なんだか聞いたことのある話と違う。早速いろいろと調べてみると、タバコの依存性について論じている論文(総説)があることがわかった。要旨を引用。強調引用者。

Stolerman, I.P. and Jarvis, M.J., "The scientific case that nicotine is addictive," Psychopharmacology (Berl), 1995 vol. 117(1), pp.2-10

Despite the wide-ranging and authoritative 1988 review by the US Surgeon General, views questioning the addictiveness of nicotine contine to be expressed in some quarters. This lack of complete consensus is not unexpected, since no universally agreed scientific definition of addiction exists. In this paper we briefly consider a number of lines of evidence from both the human and animal literature bearing on the addictiveness of nicotine. Patterns of use by smokers and the remarkable intractability of the smoking habit point to compulsive use as the norm. Studies in both animal and human subjects have shown that nicotine can function as reinforcer, albeit under a more limited range of conditions than with some other drugs of abuse. In drug discrimination paradigms there is some cross-generalisation between nicotine on the one hand, and amphetamine and cocaine on the other. A well-defined nicotine withdrawal syndrome has been delineated which is alleviated by nicotine replacement. Nicotine replacement also enhances outcomes in smoking cessation, roughly doubling success rates. In total, the evidence clearly identifies nicotine as a powerful drug of addiction, comparable to heroin, cocaine and alcohol.

強調した部分にあるように、この総説では、「総合的には、ニコチンはヘロイン、コカイン、アルコールに匹敵する、強力な依存性薬物であることが明確に示された*1と結んでいる。


はてさて。どっちの言うことが正しいのやら。*2

*1:適当訳

*2:PsychopharmacologyのCIは知らないが、個人的にはこっちに信頼を置くよな。多分JTの言うことは嘘ではないことを組み合わせているんだろうが、疫学の評価といい、恣意的で、信用を置くことはできない。