ポロニウムに関する誤解

rag(take_the_rag_away)氏にご教示いただいたことと、氏がYahoo!掲示板に書かれていたことの備忘(引用が不適切であれば、ご指摘ください)。

ポロニウム放射能はウランの300倍」…完全な誤りです。
放射能はやはり、100億倍以上が正解。


ノーベル賞HP、キュリー夫妻の紹介記事:
Marie and Pierre Curie and the Discovery of Polonium and Radium
http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/articles/curie/index.html
で、誤解の原因がようやくわかりました。


「ウランの300倍」は、キュリー夫人がピッチブレンド(瀝青ウラン鉱)から
分離した「ビスマスを含む成分」の放射能


At the end of June 1898, they had a substance that was about 300 times more strongly active than uranium.


これについて、原論文の記載:
"We thus believe that the substance that we have extracted from pitchblende contains a metal never known before, akin to bismuth in its analytic properties. If the existence of this new metal is confirmed, we suggest that it should be called polonium after the name of the country of origin of one of us."


「・・・分析上の特性がビスマスに類似した未知の金属を含む・・・」
「もしこの新しい金属の存在が確かめられるならば・・・」


この時点では、新しい放射性金属「ポロニウム」の含有が示唆されただけで、
単品として分離されたわけではありません。
周期表上の位置が確定したのが1912年、純粋な金属の調製は1946年)

なんだかとってもシンプルな誤解である。こんな安易な誤解が、なんでここまで「定説」化するんだ?

ポロニウムの急性毒性

で、結局ポロニウムの致死量はいくつなのか。


それに関して、英語版wikipediaに文献付で、ラットの致死量のデータが紹介されている。そこには*1

In rats a dose of 1.45 MBq/kg of 210Po tends to cause death in about 30 days.*2

とある。210Poの比放射能1.7*3×1014 Bq/gを用いて計算すれば、

  • 30日以内に死に至る量:8.5ng/body weight (kg)*4 (ただしラットの場合)


ということになる。これをヒトと同じとし、成人男性の体重70kgで計算すれば、致死量(30日以内)は約600ngということになる。


7pgと比べて、105も違いますな。

*1:当初引用時より記述が大幅に増えている。引用番号ではなく、文献を入れておく

*2:Rencováa J., Svoboda V., Holuša R., Volf V., Jones M. M., Singh P. K. (1997). "Reduction of subacute lethal radiotoxicity of polonium-210 in rats by chelating agents". International Journal of Radiation Biology 72 (3): 247 - 249.

*3:もう一桁有効数字を上げるなら1.66となるようだ。

*4:英語版wikipediaには8.7ng/kgと書かれている。比放射能Nuclide Safety Data Sheet(PDF)にある1.66(166 TBq/g)で計算した結果と合致する。一応自分が1.7で計算した結果として、これを残しておく。

Pu

ちなみに、プルトニウムはウランの10万倍放射能が強いそうだ。


ポロニウムがウランの300倍という誤解に基づけば、プルトニウムポロニウムと比べてもさらに300倍毒性が強い!!!ということになる!!!



当然、本当はポロニウムはウランの100億倍強いのだから、ポロニウムのほうが、プルトニウムの10万倍強いという計算になるのだが。*1

*1:なんだか、たまたま300倍と10万倍がって数字だけになってて、すごくわかりづらい気がする(^^;;;