島 泰三『親指はなぜ太いのか?直立二足歩行の起原に迫る』(中公新書)
著者は、
- ニッチは主食によって成立する
- 霊長類ではそれに見合った手と口の構造をとる(口と手連合仮説)
といった仮説について、著者の得意分野である原猿類の研究を中心にして検討し、類人猿に至るまで確認した上で、
人の、霊長類としては
- 親指が異常に太い(手)
- 盲腸が異常に短い
- 歯のエナメル質が異常に厚い(口)
と言った特徴から人類がどのようなニッチから成立したのかについて仮説を展開する。
具体的には
1.から主食の摂取にあたって強くものを握ることが必要であったことがわかり、
2.から高エネルギーの脂肪食を主食として種が成立したことがわかる。
そして3.に加えて肉食するには鋭くなく(加えてハイエナのような横取りを行うには素早さや防御等の武器も欠く)、草食するには繊維をすりつぶすのに適切ではなく、といったことから(以下ネタばれ)サバンナには大量に存在すると言う肉食獣の食べ残しである骨(骨髄)を主食とした(「ボーン・ハンティング(骨猟)」仮説)と言う仮説を提唱する。これについては、 量が多いだけではなく高脂肪で十分に栄養があること(同重量の豚肩肉よりも高栄養である!)を示し、さらに実際に自分で試してみて、適当な石で砕いてやれば(強く握る!)、あとは現代人の歯でもしばらくかみ続けることでペースト状にすることができることを確認している。
以上一読後の印象からまとめたので不正確なところもあるかもしれないが、概ねこんな話であった。推理小説のようにぐいぐいと読ませる実に刺激的な文章で、私は猿学、霊長類学、人類学の素養に乏しいので正確な評価はできないが、なかなか説得力のある、興味深い説のように思えた。ただ内容があんまり気分の良くない説なので一般受けはあんまりしないかもしれないなあ。
ちなみに、この著者は「日本では珍しい独立系研究者」ということで、その意味でもちょっと興味深い本であった。