微小な被曝を大人口で掛け合わせて健康リスクの予測を行う集団線量の使い方は間違っています

So-net blog:ペガサス・ブログ版:六カ所事業所からの放射能による集団線量(グリーンピース報告書)』経由
低気温のエクスタシーbyはなゆー:グリンピースは「六ヶ所再処理工場」のために15,000人が癌死と推計』経由
グリーンピース:六ヶ所再処理工場:放射性各種の推定放出量と集団線量(pdf)


久々に「これはひどい」文書。


放射性核種の放出を批判することはわかる。しかしそのためにいい加減な計算でセンセーショナルに煽るというのは一種のテロであり、誤った行為であると考える。



具体的に説明しよう。今回の記事の煽りポイントは、低気温のエクスタシーのタイトルにもある、がん死が15000人というところである。同サイトから引用すれば

報告書は、同工場が操業予定期間中(40年間)に日常的に放出する放射能によって、たとえ深刻な事故が起きなくとも、世界全体で1万5000人が癌で死亡すると計算されると示しています。

お分かりだろうか。微小なリスクを、地球人口60億人に掛け合わせるだけではこと足らず、40年間という期間にわたって掛け算し、それでようやく1万5000人というセンセーショナルに響く数値を出しているのである。


それでもその計算に根拠があるのなら聞くべきであるかもしれない。しかし、とんでもないことに、むしろそうするべきではないという国際的コンセンサスがあるのだ。2007年に出たICRP新勧告には、集団線量についてこのようにかかれている。

(161) Collective effective dose is an instrument for optimisation, for comparing radiological technologies and protection procedures. Collective effective dose is not intended as a tool for epidemiological studies, and it is inappropriate to use it in risk projections. This is because the assumptions implicit in the calculation of collective effective dose (e.g., when applying the LNT model) conceal large biological and statistical uncertainties. Specifically, the computation of cancer deaths based on collective effective doses involving trivial exposures to large populations is not reasonable and should be avoided. Such computations based on collective effective dose were never intended, are biologically and statistically very uncertain, presuppose a number of caveats that tend not to be repeated when estimates are quoted out of context, and are an incorrect use of this protection quantity.

すなわち

集団線量はリスクの予測に使うのは不適切だし、特に、微小な被曝を大人口に掛け合わせてがんの死亡を計算するような使い方は筋が通っておらず、想定されたつかいかたじゃないし、生物学的にも統計的にも非常に不確定なものなのだから、そういう使い方しちゃだめ(should be avoided)。(大意)

と明記してあるのだ。


ちなみにこの文書の著者については

イアン・フェアリー博士*1
環境放射線コンサルタント。電離放射線の健康への影響について多くの評価を手がけてきた。内部被ばくに関する英国政府の諮問委員会「内部放射体リスク検討委員会(CERRIE)」の科学担当をはじめ、欧州議会、英国政府、地方政府、環境NGO などのコンサルタントを歴任。欧州議会・科学技術オプション評価(STOA)ユニット委託によるセラフィールド及びラアーグ再処理工場からの放出放射能に関する報告書など、著書、論文多数。

とある。CERRIEの委員をされていたのなら、その辺りもむしろよくご存知のはずだろう。知ってて

24. …しかし今日入手可能な情報と、現在認められている放射線影響モデル4*2を考慮すると、二再処理工場における放出放射能からの放射線による将来の損害(デトリメント)を推定するうえで、もっとも妥当なのは集団線量である。

等と書く辺り(上記リンクpdfより)、確信犯もいいところだろう。



ちなみに、一年間の日本の人口1億2千万人相手で計算すれば7.5人である。これですら誤った使い方でであるのに、それでもこれじゃインパクトが弱いからと、毒食わば皿までとばかりに、更に無理やりに大きい数字にして、煽動しようとしているようにしか見えない。


不誠実極まりない。

*1:Dr. Ian Fairlie

*2:原注:4 とくに、放射線の影響については「しきい値なし直線仮説(LNT)」を、世界の全ての放射線管理当局者が引き続き用いている。